目の前に突然、稲妻のようなギザギザした光が現れ、それが視野の中で拡大していく。あるいは、キラキラとした光の波が視界を遮るように広がる。このような視覚現象を「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼びます。この症状は、多くの場合、片頭痛の前兆(アウラ)として出現することで知られています。片頭痛は、ズキンズキンと脈打つような拍動性の頭痛が特徴的な疾患ですが、全ての人に前兆が現れるわけではありません。前兆のある片頭痛は、全体の約20~30%と言われています。閃輝暗点は、この前兆の中でも最も代表的なものです。通常、閃輝暗点は5分から30分程度持続し、その後、徐々に消失していきます。そして、閃輝暗点が治まるのとほぼ同時か、あるいは60分以内に片頭痛の頭痛発作が始まるのが典型的なパターンです。頭痛は、頭の片側に起こることが多いですが、両側に起こることもあり、吐き気や嘔吐、光や音に対する過敏性を伴うことも少なくありません。なぜ片頭痛の前兆として閃輝暗点が起こるのでしょうか。そのメカニズムは完全には解明されていませんが、現在最も有力とされているのは「皮質拡延性抑制(CSD:Cortical Spreading Depression)」という現象が関わっているという説です。これは、脳の表面(大脳皮質)で、神経細胞の興奮とそれに続く抑制の波がゆっくりと広がっていく現象で、この波が視覚情報を処理する後頭葉に達すると、閃輝暗点として認識されると考えられています。閃輝暗点を経験した場合、その後に片頭痛が起こる可能性が高いことを念頭に置き、早めに安静にしたり、医師から処方されている片頭痛治療薬を服用したりするなどの対策をとることが、頭痛の重症化を防ぐ上で重要になります。ただし、閃輝暗点のような症状が初めて現れた場合や、いつもと違う症状の場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、正確な診断を受けることが大切です。