私の眠れない日々は新しいプロジェクトのリーダーに任命された数ヶ月前から静かに始まりました。最初は仕事のプレッシャーからか布団に入っても頭の中で仕事の段取りや翌日の会議のことがぐるぐると駆け巡り、なかなか寝付けないという程度でした。しかしプロジェクトが進行するにつれその症状は徐々に深刻化していきました。寝付くまでに2時間以上かかるようになりようやく眠れたと思っても夜中に何度も目が覚めてしまう。そして一度目が覚めるともう二度と眠りの世界に戻ることはできないのです。明け方浅い眠りの中で悪夢にうなされ心臓をバクバクさせながら目を覚ます。そんな毎日でした。日中は常に頭に霧がかかったような状態で集中力が続かず簡単なミスを連発。会議中には強い眠気に襲われ自分の発言の番で言葉に詰まることもありました。夜が来るのが怖かった。「今夜もまた眠れないのではないか」という強い不安と焦りがベッドに入る前から私を支配していました。市販の睡眠改善薬を試したり寝る前にホットミルクを飲んだりリラックス効果のある音楽を聴いたり。考えつく限りのことは全て試しましたが効果はありませんでした。心身ともに限界を感じていた時、妻が心配そうな顔で「一度専門の先生に相談してみたら?」と心療内科のクリニックを探してくれました。正直心療内科と聞くと少し抵抗感があったのは事実です。しかしこのままでは仕事も家庭も全てが壊れてしまうという危機感が私の背中を押しました。予約の日、診察室で私はこれまでの経緯を途切れ途切れに話しました。先生は私の話を遮ることなく静かにそして共感的に耳を傾けてくれました。そして「それはつらかったですね。あなたの脳は常に興奮状態で休むことができなくなっているんです」と診断を下しました。その日から睡眠導入剤と気持ちを落ち着ける薬の服用、そして睡眠衛生指導が始まりました。あの時勇気を出して専門家の扉を叩いたこと。それが私を暗く長い眠れない夜のトンネルから救い出してくれた最初のそして最も重要な一歩だったのです。
私が不眠で心療内科の扉を叩いた日