閃輝暗点という特徴的な視覚症状は、主に片頭痛の前兆として現れることが知られていますが、その背景には脳内で起こる複雑な現象が関わっています。現在、閃輝暗点の発生メカニズムとして最も有力視されているのが、「皮質拡延性抑制(CSD:Cortical Spreading Depression)」という現象です。これは、脳の表面を覆う大脳皮質において、神経細胞の一時的な強い興奮が波のように広がり、その後に神経活動が抑制される状態が続くというものです。このCSDの波が、視覚情報を処理する後頭葉の視覚野に到達すると、その領域の神経細胞の活動が一時的に変化し、結果として実際には存在しない光(閃輝)や、視野の一部が見えなくなる(暗点)といった症状として認識されると考えられています。なぜCSDが起こるのか、その根本的な原因についてはまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因や、ストレス、睡眠不足、特定の飲食物(チョコレート、チーズ、赤ワインなど)、ホルモンバランスの変化(特に女性の場合、月経周期との関連)、天候の変化などが誘因となることが指摘されています。これらの誘因によって、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れたり、脳血管の反応性が変化したりすることが、CSDを引き起こすきっかけになるのではないかと考えられています。また、稀ではありますが、片頭痛とは関係なく、脳血管障害(脳梗塞や脳出血の前触れ)、脳腫瘍、てんかんといった他の脳疾患が原因で、閃輝暗点に似た視覚症状が現れることもあります。そのため、閃輝暗点の症状が初めて現れた場合や、これまでの片頭痛のパターンと異なる場合、あるいは頭痛を伴わない閃輝暗点が頻繁に起こる場合などは、自己判断せずに神経内科などの専門医を受診し、精密な検査を受けることが重要です。医師は、症状の詳しい聞き取りや検査を通じて、原因を特定し、適切な対処法を指導してくれます。
閃輝暗点なぜ起こる?考えられる原因